2011年3月18日金曜日

「やじろべぇは左右に揺れながらバランスをとっているから倒れない」


―― 多くの企業では社員同士のコミュニケーション問題というのはどこの企業でも問題となっていますが御社は全く違いますね。

■HPで拝見しましたが、大手企業では珍しい全体朝礼があるんですね。



全体朝会は月2回行います。全員で社歌を歌い、役員講話を聞き、ときには新入社員の紹介や表彰などを行っています。社員ひとりひとりが発言することはありませんが、最新の情報や経営の思いを自分のものにしてもらう、会社の方向性に共感してもらう場という感じでしょうか。

社員の声をすくい上げる場は、先ほど申しあげた目標設定や評価結果のフィードバック面談、ほかに自己申告の制度を持っていますが、普段から距離感を縮めておかないと、本音で話し合うことは難しいものです。職場で仕事の話をするのは当たり前ですが、雑談ができる時間をどう作るかが大事ですね。

社内研修では、直接の上司でない管理職がグループワークのトレーナーを務めたり、役員がスピーチする時間を作っています。役員や管理職には、仕事以外に自分のキャリアを話してもらうよう依頼しています。30代の人に話をするときは、その頃自分は何をしていたか、何を考えていたか、悩んでいたか‥。その人の背景がわかると、普段は厳しい役員さんでも一気に親近感が増すと思いませんか。
具体的に自分のキャリアについて考えるヒントにもなりますし、これからどのように社会に貢献していくかを考えるきっかけにしてほしいと思います。

―― 確かにその人の背景が解るのはすごく大きいですね。 やはり人とどう付き合っていくかが最大の課題なのかもしれませんね。難しいようですが本当にちょっとした取り組みで変わるんだなって感じました。例えば女性は特に働く環境次第で働き続けたいと思ったり、逆に家庭と仕事を天秤にかけて仕事を辞めたいと思うことがあると思います。

■その点で御社はどのような工夫をされていますか?


本当にちょっとした仕掛けでも、随所に作っておけば変わると思いますよ。
長い人生ですから、介護や子育てなどに忙しい時期は男女問わず必ずあります。そんな時、少し仕事の手を抜いてくれたらいいなと思います。
当社の最高顧問が「やじろべぇは左右に揺れながらバランスをとっているから倒れない」と話していました。やじろべぇのように、今は子育てと家事を大切にするとき、今は仕事に全力投球するとき、配分は2割と8割等々、その時々に意識していければいいと思うんです。仕事も子育ても両方とも手一杯しようとするとしんどくなりますから。
短時間社員制度をつかうなら、6割の時間の中で一生懸命働いてね、お給料は時間比例で減らすから気兼ねはするなって。(笑)

今は少子化高齢化の時代ですから、自分の両親と配偶者の両親の4人を夫婦で看るケースが増えるでしょう。子育ては期限が限定され先が見えますが、介護は先が見えません。
介護休業制度も今は看取りの3ヶ月間です。長期戦になれば、会社を気分転換の場所にするくらいでないと心も身体も持ちません。ワークシェアで週3日だけ会社に来てもらうなど、フレキシブルに働けるそんな場にしたいなとも思います。お互い様ですから。
人事でもチームリーダーの男性が育児休暇を取得者しましたが、時間が限られている分、集中力が増し、すごく仕事の効率が上がると実感したそうです。
6時間で帰るには、仕事も生活もうまくマネジメントして効率良くこなさなくてはなりません。短時間制度を利用してきた社員が、続く世代に「先輩たちが頑張って今の仕組みをつくってくれたのだから、安易な気持ちや権利意識は持たないでほしい。次の人に伝える覚悟をもって‥」と話していたと聞いて本当に感動しました。(笑)


仕事の報酬は給与や昇格だと考えがちですが、休暇も報酬だと思います。育児休業や短時間社員制度も、今まで自分が頑張って働いてきた報酬だという自信があれば伸び伸び取れますし、実際に周りもサポートしてくれますよね。法律やルールだけではうまくいきません。「早く復職してほしい」と思われる社員でいて欲しいと思います。
育児休暇の復職一カ月前に一度社に来てもらい、健康状態や復職後の勤務形態の希望、担当してもらう仕事などについて上司と面談してもらっています。事前に顔をみておけばお互い安心ですから。育児休業中、スキルが落ちないように勉強していただくプランをお持ちの会社もありますが、それはどっちでもいいと思います。やる気と時間のある人は用意しなくても勉強しますし、育児や家事で手いっぱいで余裕のない人もあるでしょう。
当社の制度は法定を大幅に上回るものではありませんが、お互いに声をかけあったり、気づかいできることが大事だと思います。ハードも大切ですが、ソフトでカバーできることもたくさんあると思いますよ。

―― なるほど・・・確かにそうですね。ちょっとした仕掛けづくりが大切ですね。

■自分自身で考える機会を仕組化されているなぁと感じますが、他に何か取り組まれていることはありますか?



1997年から業務改善活動「Black Jack」に取り組んでいます。形にとらわれず何かを変えようとする全ての活動の総称です。活動の名前は社長が付けました。カードゲームのブラックジャックは“21”が最強ですね。それにちなんで「21世紀最強企業を目指そう」という思いが込められています。
仕事の中には、反射神経だけで処理できる仕事も山ほどあります。でもそれだけでなく、創意工夫、独自性や思いなど、プロセスを自分なりに演出できたら楽しいし、たくさんの仲間を巻き込めれば大きな力になりますよね。

例えばBlack Jack活動から、マナーアッププロジェクトが会社を挙げて始まりました。新入社員研修でマナー研修を受けた新人さんから「配属先の先輩が挨拶してくれません」との声が上がりました。下手をすると自分たちも挨拶しなくなるものですが、「自分達が挨拶運動をします!!」といって正門の前に立ち始めてくれたのです。業績が良くない時でしたが、「こういう時こそ胸を張って挨拶をしましょう」と翌年3月から副社長にリーダーをお願いしてマナーアップの全社プロジェクトがスタートしました。

全社朝会で挨拶のレッスンや、ペアになって身だしなみチェックも行ないました。社長も自ら舞台に上がられて、ニコニコと「頭髪は乱れていませんか、ネクタイは曲がっていませんか?」と相互チェックに加わって頂きました。普段は言いづらいことでも、こういう場を借りれば伝えやすいですし、最後に「感謝の気持ちを込めて握手しましょう」とちょっとした工夫をすることで雰囲気は大きくかわりますよ。社員からも普段話したことがない人とコミュニケーションを取れてよかったという意見もありました。マナー強化月間や○○週間などテーマを決め、ポイントは特にここ!と決めて行ないます。
現在は、ビジネス文書や会議の進め方も含めたビジネスマナーを教育体系に組み込んで定着を図っていますが、新入社員による挨拶運動は次の年にも引き継がれ3年間続いています。

―― 新入社員の声に会社全体が動き、副社長自ら行動して下さるのはすごく力になりますね!

■プロジェクトを開始時は何かご説明されるんですか?
業績が悪い時には取り組みがなかなか進まない場合もあると思うのですが御社はいかがですか?


元々マナーを大事にしようというのが経営トップを始めとするHORIBAの考えですね。挨拶運動はお金も時間もかかりませんし、簡単にできることです。どうせなら、管理本部から強制されるより、新人の活動をみて皆で応援しようという気持ちになるほうが素敵だと思いませんか。何かをやりたい人がいるのなら、会社の仕組みを知っている者が進め方の道筋を示し、少し背中を押せばいいと思います。各部門から将来期待できる人をプロジェクトに推薦してもらうようにすると、活動のモチベーションが上がり、成果があがる。若い時の成功体験は大事ですし、プロジェクトなら期間を限定できますしね。

一見業務そのものとは関係無いようですが、海外ではマナーがなっていないと誰からも相手にしてもらえないといいます。当社の研修所では、ベットメイキングは自分で行ないますし、洗面所も使ったあとは水滴を拭きとることをグランドルールにしています。次の人に気持ち良く使ってもらう気持ちがマナーの基本ですから。

―― 少し背中を押す、また説明しなくても皆が取り組もうとする姿勢や風土がすごく素敵ですね。

(2011年2月4日現在)

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